仕事 PR

部下の育成で大事なこと

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

「あの黒い物体は何だ?」

その日は取引先との打ち合わせのため、朝から車に乗って出張に出かけていた。
昼前には先方との打ち合わせが終わり、帰りに何を食べようかなと、久々の外食に心躍らせながら車を走らせていた。ただ、外は大雨だったので視界が悪く、安全に気を付けながらゆっくりと走っていた。

その道中で、車道の端に黒い物体を見かけた。

目立つ大きさだったので、思わず冒頭の言葉を発していた。
大きさはハンドボールくらいで、車で踏みつけるわけにはいかず、避けるように運転した。
その時、黒い物体は何だったのか目の端で確認すると、大きなカメだった。

どこに向かっているのかわからないが、2車線の道路を横切ろうとノロノロと歩いていた。

「うわ! 大きい。しかし、野生のカメを見たのは久しぶりだな」と思いながら、すぐに通り過ぎた。

時間にして1秒もない間の出来事だった。しかし、後にこのカメが大事なことを気づかせてくれることになる。

その後、お気に入りの定食屋で昼ご飯を済ませ、会社に向かって運転していたのだが、先ほど見かけたカメのことが頭から離れなかった。

「あのカメはどこに向かっていたのだろうか?」
「久しぶりに野生の大きなカメを見て、川に入って遊びまわっていた子供の頃を思い出したからなのだろうか?」
「最近疲れていたので、動物に癒されたかったのか?」

理由を色々と考えてみたが「仕事がなければカメの動きをもう少し見ておきたかったな」という残念な気持ちが一番強かったように思える。

車中は一人で暇だったから、せっかくなのでその状況をシミュレーションしてみた。

まず、状況を思い出すところから。

かなり強い雨が降っていて、視界が悪い。

車のワイパーを速く動かさないと視界が確保できないくらいだ。

しかも、近くに信号はなく、両脇に田んぼが広がった、見通しのいい直線道路なので、スピードが出やすい。

当時の状況は、車の運転手がカメに気づかず、誤ってひいてしまう可能性が高い状況だった。

カメが車にひかれるのは絶対に見たくない。

だからといって、カメを車道の向こう側に持ち運ぶことはしない。

もし、持ち運んでしまったら、カメが歩くところをほとんど見ることもなく、そのまま田んぼの中に消えていくだろう。

これでは意味がない。

「カメ語」は話せないので、カメが渡ろうとしている車道がいかに危険なのか伝えることができない。

カメのエサでも持っていれば、それを使ってうまく誘導することができるかもしれないが、あいにく手持ちがない。

ジェスチャーを使ったり、ポンポンと軽く叩くなどしたりして、なるべく速く歩いてもらうように促したい気持ちになるだろう。

しかし、無駄なので、結局は何もせず見守るしかない。

私は車にひかれないか心配しているが、カメには何の関係もない。

カメは自分のペースを崩さず歩く。

しばらくカメの動きを温かく見守っているだろうが、思い通りに動かないので少し焦ってくる。

「最短コースはそっちじゃないよ」

「なんでそんなにゆっくり歩いているんだ。もう少し速く歩けないか?」

「待っていられない。やっぱり、俺が手に持って連れていこうかな」

と、思わず声をかけてしまうだろう。

ただ、カメからすると何を言っているかわからないので、全く気にも留めないだろう。

最終的には自分がこんな気持ちでいるのが嫌だから、カメを車道の向こうに運んでいる気がする。

「あれ? シミュレーション上では、カメの歩みを見ていないではないか?」

そして、不意に「この状況は何かに似ている気がする」とも思った。

「そうか。部下の育成と同じなのかもしれない」

最近の子は優秀な子が多く、自分が正しいと思うやり方でどんどん仕事を進めてくれることが多い。

しかし、いくら優秀といっても、全てが上手くいくことはない。

色々なことを経験した自分からすると、「そのやり方はよくないから、上手くいかないだろうな」といったことに気づくことが多い。

そんな時は、ついつい口出ししたり、手伝ったりしてしまっている。

そうすることで、上手く仕事を進めることができる。

ちょうどカメを車道の向こうに運んでしまっているのと同じだ。

ただ、これが部下にとって本当に良いこととは限らない。

「本人が正しいと思うやり方が正しくなかった」という経験ができないからだ。

しかも、人に言われたやり方をすることになるので、主体性がなくなるし、なにより本人のやる気もそがれてしまうかもしれない。

また、過去の自分を振り返ると、人からアドバイスを受けてうまくいったことよりも、自分が思うやり方が正しくなかったという経験をしたことの方が、自分に取って大きな学びとなっている。

だから、上手くいかないとわかったとしても、部下に経験してもらうことの方が大事だと思い、口出しや手出しするのをグッとこらえる。

ハラハラしながらも、歩みをじっと見守るようにしなければいけない。

すると、最終的には自分の足で目的地に到着してくれるに違いない。

「部下の育成の秘訣は、カメの横断をじっと見守るようなものだ」

そんなことを思った、平日の昼間であった。